埤雅の研究>釈草篇(4)
【莫】
河汾の間、之を莫と謂ふ。茎は大なること箸の如し。赤節、葉は厚し。而して長く栁(ⅰ)に似たる。毛刺有り。味は酢
し。始生は以て羮と為すべし。今人の蠶繅以て繭緒を取る。其の子は楮実の如くして紅し。冀人、之を乾絳と謂ふ。蓋し此を以てするなり。今、呉越の俗、呼び
て茂子と為す。汾沮洳の詩、一章に曰く、「言に其の莫を采る」(1)と。二章に曰く、「言に其の桑を采る」(2)と。
言ふこころは其の君、倹にして以て能
く勤め、繅事を侵すに始まりて莫を采り、蠶事を侵すに終わりて桑を采るなり。
[校記]
(ⅰ)五雅本、柳に作る。
[注釈]
(1) 『詩経』国風・魏風・汾沮洳の第一スタンザ。
(2) 『詩経』国風・魏風・汾沮洳の第二スタンザ。
[考察]
莫はスイバ(酸模 Rumex acetosa)に同定さ
れる。茎や葉に酸味があるのでスイバの和名がある。中国では生や羮で食べ、また薬用としても皮膚病などに用いられる。
欧米では特に若芽を好んで食用として栽培し、浸出液から黄色染料を、乾燥させた地下茎からは淡紅色の染料をとったという(『世界有用植物事
典』)。
毛伝や鄭箋は莫を食用とするのだといい、朱子は羮にするのだという。陸佃は繅事に用いるのだというがどのように使うのかよくわからない。(野口)