現代漢語では莧は雁来紅ともいい、ハゲイトウ(Amaranthus tricolor)のことを指す。ハゲイトウは高さ〇・八~一メートルで葉は長い柄を持ち紅や黄などの斑があって美しい。ただ、ヒユ属 (Amaranthus)は世界に約五十種存在し、現在の中国では十三種あり外部形態も似ているので、厳密には莧はヒユ属植物としたほうが良いかもしれな い。
莧は数種類の植物を指していると考えられる。『重修政和経史証類備用本草』が引く『蜀本草』によると、莧には赤莧、白莧、人莧、紫莧、五色莧、馬 莧の六種類があるという。『植物名実図考』によると、五色莧は雁来紅の属で、人莧は鐵莧、馬莧は馬歯莧であるという。
馬歯莧とはスベリヒユ科のスベリヒユ(Portulaca oleracea)のことで、草全体が肉質で茎は分枝し地面をはって広がる。高さは一〇~三〇センチメートル程度である。肉質の部分には水 分を多く含むが、古くは水銀があると考えられていた。馬歯莧には長命草の別名があり、その由来について李時珍は乾燥に耐え、生命力が強いからと考えた (『本草綱目』馬歯莧の釈名)。神仙流の医家は馬歯莧の種子を長寿の薬として用いた。現代中医学でもこれを清熱解毒薬として用いる。
ヒユ属植物のうちハリゲイトウや繁穂莧(A. paniculatus)、
アオゲイトウ(反枝莧A. retroflex)などが、同じヒユ
科の植物であるノゲイトウ(青葙 Celosia argentea)
の代用として薬に用いられている(『新編中薬志』)。(野口)