埤雅の研究>釈草篇(3)
【木槿】
釈草に曰く、「椴は木槿なり、櫬は木槿なり」(1)と。李に似、五月に始めて華さく。月令に、「木槿栄ゆ」(2)と
は、是れな
り。華は葵の如くして、朝生じ、夕べ隕つ。一名、舜。蓋し瞬の義、諸を此に取るなり。『詩』に曰く、「顔は舜華の如し」(3)と。
又曰く、「顔は舜英の如
し」(4)と。顔は舜華の如しとは則ち与に久しかるべからざるを言ふ。顔は舜英の如しとは則ち愈よ与に久しかるべからず。蓋し栄え
て実らざる者、之を英と
謂ふ。『人物志』に曰く、「草の精秀なる者を英と為す。獣の群れを将ひる者を雄と為す。張良は是れ英なり。韓信は是れ雄なり」(5)と。
『篤論』に曰く、
「日給の華、奈に似る。奈は実にして、日給は虚なり」(6)と。虚偽と真実とは相似たるなり。『羲之法帖』に曰く、「来禽は青李、
来禽は奈の属なり」
(7)と。果の美を以て禽を来たらしむるを言ふなり。
[注釈]
(1) 『爾雅』釈草に「椴木菫櫬木菫」とある。
(2) 『礼記』月令。
(3) 『詩経』国風・鄭風・有女同車の第一スタンザ。
(4) 『詩経』国風・鄭風・有女同車の第二スタンザ。
(5) 『人物志』英雄。
(6) 『篤論』 魏・杜恕の撰。
(7) 羲之は王羲之のこと。晋の書道家である
[考察]
木槿はムクゲ(Hibiscus syriacus)に同
定される。庭木としてよく植えられ、園芸品種が多くある。幹は高さ三メートル内外でよく枝分かれする。花は八、九月に開き、紅、紫、白、八重咲きなどの品
種がある。『爾雅』や『埤雅』では草部にあるが、実際は木本である。
花が朝開き夕方にしぼむことから、舜という別名があるが、日本では和名としてアサガホということもある(『詩経名物弁解』)。(野口)