『詩経植物図鑑』では、『詩経』の荼は①「幽風・七月」では苦菜(ノゲシ Sonchus oleraceus)、②「周頌・良耜」では陸生植物、③「鄭風・出其東門」や「豳風・鴟鴞」では蘆葦(ヨシのなかま)や白茅(チガヤ)の花序の三種類に 分類している。これは宋・厳粲撰『詩緝』などに見られる解釈である。
『埤雅』では『顔氏家訓』の記述を荼の特徴として引いているが、これはキク科タンポポ亜科の特徴と一致する。タンポポ亜科の植物は連合乳管が発達 し、植物体を折ると乳液が出る。またキク科植物は集合花があたかも一つの花のように見える「集合花」を形成する。『埤雅』では『詩経』中の荼は全てノゲシ などのタンポポ亜科の植物とし、チガヤの花序などとは解釈していない。
『本草綱目』では貝母や敗醤(オミナエシ)、龍葵の別名として苦菜を挙げている。敗醤、苦菜の名は科を越えて名前が混乱しているため、『中華人民 共和国薬典』では、キク科植物によるものを北敗醤としてオミナエシ科のものと区別した。『新編中薬志』北敗醤の項には、「因為北方地区民間常把苣蕒菜等多 種菊科植物称作“苦菜”」とあり、多種のキク科植物を「苦菜」と呼んでいたことがわかる。以下、苦菜や敗醤草と呼ばれるキク科植物群の可能性を表に示す (『新編中薬志』より)。
また荼がチガヤやヨシの類を指すということについては水上静夫著『中国古代植物学の研究』(角川書店)で詳しい考証が為されている。水上氏によれ ば、荼には家屋建築資材の草の意味があるということである。
荼は『埤雅』のように一種の植物に同定できるものでは無いようで、広義には表に挙げたタンポポ亜科の植物とオミナエシの仲間、陸生植物、チガヤ・
ヨシなどを指していると考えられる。(野口)
和名 |
漢名 |
学名 |
---|---|---|
ハチジョウナ |
苣蕒菜 |
Sonchus
arvensis |
ノゲシ |
苦苣菜 |
S.
oleraceus |
乳苣 |
Mulgedium
tataricum |
|
タカサゴソウの母種 |
中華小苦蕒 |
Ixeridium
chinensis |
抱茎小苦蕒 |
I.
sonchifolium |