中国茶がおいしいの      文:畑中 桂

 

 友にもいろいろあるけれど、良友,悪友には日ごろから世話になったり、世話をさせられたりしているの。専攻会のみんなは、もちろん良友だとおもうの。感謝感謝。ところで中国では、お茶のことを「清友」と呼ぶの。お茶を飲むと、心も体も清められた感じがするからね。飲茶清談、ここでは清らかな話をするの。

お茶にまつわるお話

いろいろなお茶 お茶がはいったら


1 お茶にまつわるお話

 

 お茶は始めは薬として飲まれていたの。名前も逗蘖(kミtu)とよばれていたの。中国の雲南省の西双版納がお茶の故郷なの。そこには「茶樹王」とよばれる野生の茶の大木があるの。

お茶が薬用から嗜好品に変わったのは,前漢時代のこと。南北朝時代には上流階級の間で定着したの。お茶に関する文学作品もこの頃作られたの。唐朝には、一般の人々の間にもお茶を飲む習慣が広まって、茶館も生まれたの。この時代にかの有名な「茶経」が陸羽によって書かれたのよ。だから陸羽はお茶の神様といわれるの。

この「茶経」によると、神農がお茶を見つけ、魯の周公という人が広めたのだって。神農は人間のためにありとあらゆるものを味見して、いいもの、悪いものを教えてくれたの。そしてお茶は毒消しとしての効果があるとして、人間に飲まれるようになったというわけ。

  唐時代以前のお茶の飲みかたは、まずお茶の葉を細かくひいて、油や米の粉を加えて団子状、もしくは平たい大判焼きのような円形に固めるの。それから、飲むときにそれを砕いて、煮出して、ネギや生姜や陳皮(チンピ)を加えるの。ほとんど薄味のスープです。蒙古のお茶もミルクや塩を加えて煮るので、昔の飲みかたを引き継いでいるのかもね。おいしいかどうかは、みなさん試して見てくださいね〜。その外にも雲南省の西双版納やその近隣のビルマやタイでは、お茶の葉を漬物にして食べるらしいの。ふむふむ、お茶はお湯に入れて飲むだけではないのね。

唐代に『茶経』がでて、お茶にネギなどの具入れずに、お茶そのものの味を楽しむ飲みかたになったの。でも、塩は入れていたそうなの。韓国ではお茶の花の塩漬けにお湯を注いで飲んだりするけど、お茶の葉は普通に飲んでいたな〜。ともかく、お茶はやっと堂々とした主役になれたわけね。

宋代には、「点茶」といって、お抹茶のような飲みかたが生まれたの。日本の茶道は宋代の飲みかたを引き継いでいるのよ。精神世界はとても日本的でしょうけれど。

明代になって、固形茶は生産されなくなって、かわりに今の様にお茶の葉にお湯を注いで出す方法が主流になったの。そして、おいしいお茶を出すのに適した茶器も発展したの。結構ここまで来るのに時間がかかっているのですね。お茶と人の付き合いが深まるほど、飲みかたがどんどん単純化していくのは面白いですね。洗練されて行った、ということでしょうか?

現在中国の普通の人々は、大きな茶碗や、蓋つきの空き瓶などに、お茶の葉を直接入れて、熱々のお湯をどぼどぼーっと注いで豪快に飲んでいるの。学校の先生も、バスの運転手も、傍らにはお茶の瓶を置いて仕事をしているので、「中国はお茶の故郷なのだ」と私は妙に感心してしまいました。若い人はペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいるけど、寮の部屋にはやっぱりお茶が常備されていて、なんだかホットしたりして。

茶館は、文化大革命の後にはほとんどなくなってしまったけれど、改革開放の波にのってまた見かけるようになっているの。そして最近、北京のビジネス街に新しい茶館ができて、若いビジネスマン、ビジネスウーマン達が商談の場所として使っているのですって。茶館は、私達がイメージする喫茶店とは違って、一種のサロンなの。最新の情報を交換したり、商談したり、時にはあやしい密約も交わされたりする場だったの。だから、茶館も今はかなり明るい雰囲気にはなったけれど、「街のサロン」という姿をやっと取り戻したのかもしれないのね。北京飯店の1Fにもあたらしく茶館がオープンしたとのこと。ちょっと行ってみたいな〜。

さて、唐代にお茶がお茶の味で飲まれるようになって、点心も発展したの。ちょうど小麦粉が安く流通するようになって、それを使った軽い軽食程度のものが点心の始まりなの。日本では「飲茶(ヤムチャ)」と言うと、お茶じゃなくて食べ物の方が主役みたいだけど、お茶があっての「飲茶」なのよ。イギリスのアフタヌーン・ティーも「飲茶」よね。 紅茶も元々中国の武夷山が起源だしね。「ピーコウ」「キームン」「コングー」という紅茶の名前も、本来は武夷茶の種類を表すものだったの。イギリスでは、緑茶が入ったばかりの頃にも、ミルクや砂糖を入れて飲んでいたということなので、中国人もイギリス人が紅茶にいろいろ混ぜて飲むのを見て、さぞかしビックリしたんじゃないかしら?

点心メニューの変遷は、中国の歴史に深く関わっているの。始めは地味に小麦粉を使ったものだけだった点心も、6世紀末には餅・粽・杏仁粥・飯類・飴類など多様になったの。そして元代に北方民族が羊肉・乳製品をもたらして、さらにメニューが広がって、19世紀には欧米諸国の影響で、西洋菓子のような、そうでないような美味しくも怪しげな領域まで広がって行ったのね。様々な地域の調理法と食材が混ざり合っている点心は、なんだかあらゆる文化を吸収してしまう中国の「強い消化力」みたいなものを感じるの。

 

ところで、お茶は世界各地に流れて行って、どんな呼び方をされているのでしょう?

 

「茶 」→ 広東語 cha→ 日本語 cha

ポルトガル語 cha

アラビア語 cha

トルコ語 chay

ロシア語 chai

→ 福建語 tay→ マレー語 te

韓国語 ta

ドイツ語 tee

英語 tea

フランス語 the

イタリア語 te

スペイン語 te

 

これら全ての「お茶」という飲み物も、もとを辿れば中国雲南省の一本のお茶の木。人間の祖先を辿るとアフリカの一人の女性に行き着くみたいな、壮大なロマンを感じるの。

2 いろいろなお茶

 

 

お茶は日本人に最も馴染みのある緑茶のほかに、紅茶、烏龍茶、最近では プーアル茶なども飲まれているけれど、もとはおんなじ種類の茶の葉っぱなの。つまり加工方法が違うのね。中国茶には茶の葉を使わないものもあるけれど、まずは茶の葉を使うものを紹介するの。

中国ではお茶の葉の色で大きく六つに分類しているの。

 

@青茶 鉄観音・水仙・岩茶

A緑茶 龍井(ロンジン)

B白茶 寿眉(ショウメイ)

C黄茶 白亳銀針(バイホーインジェン)

D紅茶 門紅茶(チーメンホンチャー)・英徳紅茶(イントーホンチャー)

E黒茶 普耳(プーアル)

この他に、北京の人が好んで飲む花茶があるの。

F花茶 茉莉花茶・桂花茶・菊花茶など(緑茶に混ぜる)

お茶ではないお茶「非茶の茶」には、虫糞茶というかなり変わったものもあるの。ガの幼虫が発酵したつばきの葉や稲の茎や葉を食べて出した糞を集めて、乾燥させるの。どんな味がするんでしょうね?まず、こんな奇妙な飲み物を考えた人ってすごい!と思ってしまいます。

 

有名な烏龍茶がない!と、思った人もいるとおもうけど、烏龍茶は@の青茶の一種。鉄観音はブランド名なの。それと岩茶というのは、福建省の武夷山の岩の上に生えるお茶で、「究極の烏龍茶」と呼ばれているの。岩のミネラルなどの養分をたっぷりと含んでいて、美味しいだけでなく、飲むと体がふわふわと軽くなるような、つまりハイな状態になれるそうなの。インスタントに仙人気分が味わえるのね。

それにしても、お茶の色がこんなにあるなんて、おどろきなの。だけど、どうして烏龍茶が青いの?それは、鉄の色からきていろのです。鉄の青びかりってあるでしょう。烏という字も黒いといいう意味なのです。色彩感覚も中国と日本では違いがあるのですね。

ところで、Fは香りのいい花をいれているのがわかるけれど、ほかはどのようにしてこんなにも多種多様のお茶になるのかな。その秘密は<発酵>にあるの。

でも、普通の発酵とはちょっと違っていて、生のお茶の葉に含まれるポリフェノール化合物が、酸化などの化学変化を起こして、茶紅素や茶黄素などに変化することなの。ポリフェノール化合物は渋味をもっているんだけど、発酵によって渋味がなくなって、まろやかな甘みがでてくるの。で、発酵の度合いによって、@は半発酵茶、Aは不発酵茶、BCは軽発酵茶、Dは半発酵〜発酵茶、Eは後発酵茶と呼ばれるの。作りかたは、下に。ちょっと専門的だけど簡単に紹介しましょう。

@萎凋(放置して、水分を減らす)〜揺青〜炒青(釜煎り)〜揉捻〜乾燥

A殺青(加熱処理)〜揉茶〜乾燥

B萎凋〜乾燥

C殺青〜揉捻〜初堺(炙る)〜擁〜再〜悶黄(高温多湿で短期間放置し、軽い発酵を促す)

D萎凋〜揉捻〜発酵(十分に発酵を進める)〜乾燥

E殺青〜初揉〜渥堆(40度ぐらいで葉を高く積み上げて放置。強い発酵を急激に促す)〜復揉〜堺浦

簡単に言うと、加熱→揉み(→発酵)→乾燥という手順が少しずつ違うの。そして良いお茶は人の手で品質によって選別されたり、ごみを一つ一つ取り除かれたりするの。

 

「良いお茶」の選びかたも、種類によってちょっと違うの。

緑茶・白茶・黄茶は新しいほど良いけれど、黒茶のプーアル茶は古ければ古いほど良いの。新しいものは香りが良く出ないから、圧力をかけて固めて、わざわざ寝かせるそうで、「陳化茶」と呼ばれるの。30年〜40年ものもあるそうよ。ワインみたい。それ以外は大体次の四つに気をつけるといいのね。

お茶の選びかた四ヶ条》

一に見るべし!(観) 色の綺麗なもの、葉の形の揃っているものを選んでね

二に嗅ぐべし!(聞) 変な匂いがしないかよーく嗅いでね

三に触るべし!(摸) 手で揉んで葉が崩れないか確かめてね

四に試すべし!(品) 最後に少しだけ試しに買って飲んでみてね

                (私はこれしかしないからいけないのかな)

 

この厳し〜い選びかたは正に漢方薬。お茶は単なる嗜好品じゃなくって、薬でもあるのね。

でも、皆さん、お茶を買う前に、嫌な顔一つせずにお客さんにじっくりお茶を選ばせてくれるお店を探しましょう。中国茶を飲めるお店もあるから、味見も兼ねて飲みに行ってみるといいね。

 

  岩茶房  東京都目黒区下目黒3−5−3 さるやビル内  電話 03−3714−7425

 

3 お茶がはいったら

 お茶はまずは香りから。お茶の楽しみは「聞(お茶の香り)・食(お茶と点心の味)・聴(小鳥の声や茶器の音、会話)・睇(お茶の色や茶器の色形など目の楽しみ)」なのです。 お茶の達人は、香水をつくる人やワインのソムリエのように香りに敏感だというけど、皆さんは例えば日本の緑茶を「きき茶」できます?

私達素人はそこまで極められないので、「食」だけでお茶を判別して行くことにしたのでした。

友達といろいろなお茶を試飲して、すごく素朴で主観的な感想ばかり並べてみたの。読んで味を想像してみてね。ちょっと無理があるかな?

 

@青茶 鉄観音

「ペットボトルのより味が濃いね」「香りも強いね」

水仙

「味が濃すぎる」「鉄観音と違わないよ」「安いし何度も飲めるからいいよ」

凍頂烏龍茶

「美味しいのは値段のせい?」「後味が甘く感じるね」

       岩茶「黄龍」(真柳先生から下賜された)

         「ちょっと苦みが舌にぴりぴりくる」「美味しい」

        (噂通りハイになるのを期待して飲んでいましたが、何杯のんでも全く変わらな  

         い人もいれば、ちょっと陽気になったかな?という人もいました。真柳先生は             

         3杯で3日間、ぼーっとなってしまったそうです。入れ方にコツがあるのか?)

 

A緑茶 龍井茶(ちょっと安物だったようです)

「日本の緑茶より色も味も薄いね」「もっと濃いほうが好き」

碧螺春

「葉っぱが小さいね」「くせが無い」

 

B白茶 白亳銀針(目の疲れをとるらしいです)

「お湯と変わらん」「草っぽい香りがする」「ほんとにお茶なの?」

 

D紅茶 キームン紅茶

「中国茶という実感がないね」「紅茶の味だ」

ライチ紅茶

「ライチの香りが甘くておいしい」

 

E黒茶 プーアル茶

「かび臭くない?」「脂っこい料理の後においしい」「私は好きです」

 

F花茶 ジャスミン茶

「香りだけ好き」「おいしい」「薬臭くない?」「飲み慣れてるとおいしいよね」

桂花茶(金木犀)

「見た目がかわいいね」「花の香りが強いね」「芳香剤としては良い」

 

このほかにも、烏龍茶を小さく丸めた「龍珠茶」や、筆のように束ねた「龍髭茶」、緑茶を花のように束ねた「牡丹茶」(菊茶とも呼ばれる)も飲んでみたけど、形が面白いので人気があったの。お湯の中でお茶の葉がゆっくり開いていくのがみれるように、ガラスのコッブで飲むのをおすすめするの。これらは珍しいお土産として良いみたいよ。特に「龍珠茶」は香りがなかに閉じ込められているからか、味も美味しかったの。

ちなみに私はジャスミン茶を飲む事が多いの。留学していた大連では北京が比較的近いのでジャスミン茶が多く飲まれていたようね。大連といえばアカシアだけれど、アカシアのお茶はなくて、天ぷらはあったの。蜂蜜とかもね。

花茶はただの青茶よりも香りが良くて、口の中に花の香りが広がるので私は好きなの。ハーブティーのように小振りのバラのつぼみや、ジャスミンだけを買ってきて、青茶や緑茶にまぜてもいいの。最高の花茶は、なんと花は入ってないの!!実は私、これを書くために調べているうちに初めて知ったので、これはまだお目にかかったことがないの。花の香りを染み込ませて、其のたびごとに花は取り出して、また新しい花をいれて香り付けをするの。それを7回も繰り返すものもあるそうよ。う〜ん、贅沢!

プーアル茶は、二日酔いの日には必ずね。悪友の後の清友。これからもよろしく。

香港の食堂でお粥を食べた時などは、プーアル茶がドカーンと大きな急須で出て来て、赤いお茶の色といい、やわらかな味といい、香港に行ってからますます好きになったの。でも悪友ほどではないのね。次回は「悪友」の酒の特集かな?

 

日本の茶道は「武士のたしなみ」だったからか、今でも茶室に入ったら背筋はびしっと伸ばして、常にキリリとした気持ちでなくてはならないような感じでしょう。おいしいからといってお菓子を次から次へおかわりしたり、おしゃべりに夢中になっていてはいけないのよね。

でも、中国茶を入れた時は、体の緊張を解いて、ゆっくりと飲みたいだけ飲み、ゆっくりと食べたいだけ食べ、話したいだけ話して、楽しい時間を過ごしていいの。中国茶でみんなハッピーになれるかも。

 

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