【鴟鵂】
釈鳥の云ふ所の恠(ⅰ)鴟(1)是なり。其の鳴けば即ち雨ふる。{国-玉+繇}(2)と為して以て諸鳥を聚むべし。一名、隻狐。昼見はるる所無く、夜即ち飛びて蚊蝱を噉ふ。鴞・服・鬼車の類なり。『荘子』の所謂「鴟鵂夜蚤を撮り、豪末を察すれども、昼出づれば目を瞋らすも邱(ⅱ)山を見ざる」(3)者なり。旧説に、雀目は夕(ⅲ)に昏す。人夕に至りて昏して物を見ざる者有り。之を雀瞀と謂ふ。即ち此の類なり。焦{章+夂+頁}(ⅳ)の『易林』に曰く、「雀目燕顙、昏くして光無きを畏る」と(4)。顔之推曰く、「雀は奚ぞ夕に瞽なる。鴟は奚ぞ昼に盲なる」と(5)。一に曰く、鵂鶹は人の爪を拾ひて其の凶吉を相すと。此れ妄説なり。
[校記]
(ⅰ)叢書本・五雅本、怪に作る。(ⅱ)叢書本・五雅本、丘に作る。(ⅲ)五雅本、多に作る。(ⅳ)叢書本・五雅本、貢に作る。
[注釈]
(1)『爾雅』釈鳥に「怪鴟」とある。
(2)囮にする鳥の意。
(3)『荘子』秋水。
(4)『易林』随之大過。
[考察]
『爾雅』がこの鳥を「怪鳥」と呼ぶのは、この鳥に耳があるためである。そしてそれが日本ではこの鳥が「みみづく」と呼ばれるゆえんである。鴟鵂は別名角鴟・怪鴟・老兔など。ここでは鴟鵂の仲間の中でも、昆虫類を餌にする種類のものであると思われる。鴟鵂の仲間で虫を食べるのはコノハズクかトラフズクである。しかし後者がバッタやカブトムシなどの害虫のみを食しているのに対し、前者ははばひろく昆虫を採食する。体の大きさはトラフズクのほうがはるかに大きいが、耳が頭の上に突出している点は共通している。なお、本文では鵂鶹も鴟鵂だと見なされているが、現在のものは耳と呼ばれる部分が見当たらないこと、また昼間から活動していることから考えても同じ仲間として認識するのにふさわしくないと思われる。なお、鴟鵂が人の爪を拾って吉凶を占うことについて、その理由は不明である。しかし昔から言われていることのようで、鴟鵂が盗まないように切った爪は埋められていたようである。(青柳)