【雕】(�@)

雕は能く草を食す。鷹に似て大、黒色なり。俗に�p雕と呼ぶ。一名、{敦+鳥}。其の飛ぶや上りて雲漢に薄る。『詩』に曰く、「鶉に匪ず鳶に匪ず、翰く飛んで天に戻る」「鱣(�A)に匪ず鮪に匪ず、潜んで淵に逃る」と(１)。人民の飛揚竄伏して安らかならざること此くの如きを言ふ。此れ(�B)序の所謂乱なり(２)。昔の雕を相する者は以為へらく、雕の首長からんと欲し、而も額狭く、頂平らに、領大いに、項後の毛磔なるは、主(�C)として勁疾なり。目睛大いに満ち、瞼(�D)長く、眸(�E)子小にして前に近きものは、主として明慧なり。爪肉(�F)に近く麤圓にして、其れ未だ繊細ならざるは、主として多力なり。蹠平潤なるものは、主として巧捷にして夭ならず。鼻大なるは、主として長飛して乏しからず。膝骨大なること蒺藜の実の如き者は上相なり。骨小さく、圭角無き者は下なり。指節大きく、肉少なく、十字を分成する者は上相なり。骨節細平なる者は下なり。純金色、青潤なる者は上相なり。浅黒なる者は下なり。叢林色、静白なる者は上相なり。黒膩なる者は下なり。封厚にして管麤なる者は上相なり。細薄なる者は下なり。背偃にして溝深き者は上相なり。隆起する者は下なり。臆の圓{月+失}(�G)なるは上相と為し、側狭は下相と為す。尾の狭厚なるは上相と為し、濶(�H)軟は下相と為す。鶻(３)相は雕(�I)に同じ。唯頭は小ならんことを欲し、頂臆は圓ならんことを欲し、旋毛は深からんことを欲し、咮は側薄ならんことを欲す。而して短小を異と為す。鷹相も亦た雕と同じ。而して鷹、又其の尾長、翅短からんことを欲す。『爾雅』に、「象之を鵠と謂ふ。玉之を雕と謂ふ」と(４)。蓋し鵠の義、鴻鵠の鵠に出づ。雕の義、雕鶚の雕(�I�@)に出づ。鵠の性は勁利、雕の性は刻制の故なり。今、大雕水上を翺翔し、魚を扇り、出だして波を沸かしめ、攫ひて之を食らふ(５)。一名、沸河。『淮南子』の所謂、「鳥、波を沸かす者有り」(６)とは、即ち此れ是れなり。『禽經』に曰く、「淘河(７)岸に在れば則ち魚没す。沸河岸に在れば則ち魚涌く」と(８)。『相感志』に云ふ、「其の毛能く緒鳥の羽を食ふ。如し羣錯草(�I�A)中に雕毛有らば、必ず衆鳥の毛羽自ずから地に落つ」と(９)。『顏子』に云ふ、「雕、一名鷲。其の翮用って箭羽と為すべし」と(10)。蓋し雕隼は六翮、皆風に乗り軽勁なり。故に以て箭羽と為すに堪へたり。『禽經』に曰く、「雕以て之を周し、鷲以て之を就す」と(11)。

［校紀］

(�@)五雅本、叢書本、�Gに作る。叢書本は以下すべて雕を�Gに作る。五雅本は(�I)以降は(�I�@)のみ�Gに作る。(�A)叢書本、鸇に作る。(�B)五雅本、此の字なし。(�C)五雅本、生に作る。(�D)五雅本、叢書本、臉に作る。(�E)五雅本、{月+牟}に作る。(�F)五雅本、内に作る。(�G)五雅本、叢書本、跌に作る。(�H)五雅本、叢書本、闊に作る。(�I)(�@)参照。(�I�@)(�@)参照。(�I�A)五雅本、艸に作る。

［注釈］

(１)『詩経』小雅・四月の第七スタンザ。

(２)『詩経』小雅・四月の序に「怨乱竝び興る」とある。

(３)鶻はハヤブサのことである。

(４)『爾雅』釈器。「象之を鵠と謂ふ。玉之を雕と謂ふ」とは象牙を磨いて白くし、玉を彫ることを言う。

(５)『淮南子』説林訓の「鳥、波を沸かす者有り、河伯之が為に潮せず」に対する高誘注に「鳥は大鵬なり。水上を翺翔し、魚を扇り、出だして波を沸かしめ、攫ひて之を食らふ」とある。

(６)注(５)を参照。

(７)淘河は鵜鶘(ペリカン)のことである。

(８)今本の『禽經』に見えない。

(９)『相感志』　『物類相感志』のこと。宋の蘇軾の撰。

(10)『顔子』　顔回に仮託した書。『説郛』に収載。

(11)今本の『禽經』に見えない。

［考察］

　雕はワシのことである。ワシとタカの区分について述べておくと、比較的からだが大きく、尾が短く足の太いものをワシと呼び、比較的体の小さく脚と尾が長いものをタカと呼ぶのだそうだが、厳密な分類学上の区別ではないらしく、例外も多いという。『中国経済動物志・鳥類』には�Gの字が付くものとして、ハゲワシの仲間を除き、７種類記載されている。金�G(学名Aquila chrysaetos、和名イヌワシ)、白肩�G(学名Aquila heliaca、和名カタジロワシ)、草原�G(学名Aquila rapax)、烏�G(学名Aquila clanga、和名カラフトワシ)、玉帯海�G(学名Haliaeetus leucoryphus)、白尾海�G(学名Haliaeetus albicilla、和名オジロワシ)、虎頭海�G(学名Haliaeetus pelagicus、和名オオワシ)である。このうち一般に雕と呼ばれていたものとしては、その成育分布域の広さから言うとオジロワシが有力であろう。ここでは、良いワシの見分け方など、その外見に関する記述に大部分が割かれているが、その外見的特徴はワシ類一般に共通するものが多く、種を特定することは難しい。雕が単にワシ類一般を指している可能性もある。

　最初に「雕は能く草を食す」とあるが、ワシが肉食であるのは言うまでもないことであり、これをなぜ「草を食す」というのかは、巣作りに関係しているとも考えられるが不明。巣立ちしたばかりの若いオジロワシは好奇心旺盛で、草木や海草をつかんで引っ張ったり、林冠すれすれを飛び、ときおり急降下して樹枝をつかみ取るなどの行動をとることもあるらしく、こういった行動を観察してのこととも考えられる。

　「其の飛ぶや上りて雲漢に薄る」雲漢とは天の川のこと。偶然だろうが、初夏には天の川沿いにはワシ座が見られる。(吉野)

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