埤雅の研究>釈草篇(4)

【蒲】

  蒲は水草なり。莞に似て、褊し。脊有り、水厓に生ず。柔滑にて温、以て席と為すべし。故に『礼』に「男、蒲璧を執る」(1)と。 人を安んずるの道有るを言ふなり。『詩』に曰く、「揚がれる水、束蒲を流さず」(2)と。言ふこころは激揚の水、宜しく能く浮泛す べし。而して蒲は又た軽 く揚がり善く泛く。今、反て流れざること此の如きは、則ち水力更に微にして勝へざるを以ての故なり。『列子』に曰く、「虚すれば則ち揚がるを夢み、実すれ ば則ち溺るを夢みる」(3)と。揚は溺の反なり。説者以為へらく、上章は薪と言ひ、楚と言へば、則ち蒲も亦(ⅰ)た 木の名にして宜しく草と為すべからざ る、とは誤れり。夫れ芻も亦た草なり。而して綢繆の詩に乃ち曰く、「束薪」「束芻」「束楚」(4)と。則ち豈に木を言ふを以ての故 に草を妨げんや。魚藻に 曰く、「魚は在り、藻に在り。其の蒲に依る。王は在り、鎬に在(ⅱ)り。那たる有り其の居」(5)と。蓋し 魚は游ぶ者なり。藻に據り蒲に依り藻に楽しみ蒲 に安んず。故に王者は身を俯きて以て万物に順ふ。而して魚の楽しむ所、王も亦た楽しむ。魚の安んずる所、王も亦た安んず。『筆談』に云ふ、「或いは曰く、 礼図の尊彝は皆木もて之を為り、未だ銅を用ふる者を聞かず。此れ亦た未だ質すべからず。今人の古銅尊を得る者の如きは極めて多し。安んぞ無と言ふを得ん や。礼図の甕の如きは瓦を以て之を為す。左伝に瑤甕律有り、竹を以て之を為る。晋の時、舜祠の下、乃ち発きて玉律を得たり。此れ亦た常の法無し。蒲穀璧の 如きは、礼図、悉く草稼の象を作る。今人、古冢を発きて蒲璧を得たり。乃ち刻文の蓬蓬たること蒲花の敷く時の如し。穀璧は粟粒の如きのみ。則ち礼図も亦た 未だ據と為すべからず」(6)と。

[校記]

(ⅰ)五雅本、一に作る。(ⅱ)四庫全書本、五雅本とも王に作る。叢書集成本、今本『詩経』とも在に作る。

[注釈]

(1)    『周礼』春官宗伯・典瑞。
(2)    『詩経』国風・王風・揚之水の第三スタンザ。
(3)    『列子』周穆王篇。
(4)    『詩経』国風・唐風・綢繆の第一、二、三スタンザ。
(5)    『詩経』小雅・魚藻之什・魚藻の第三スタンザ。
(6)    『夢渓筆談』器用。

[考察]

 蒲はガマ(香蒲 Typha latifolia)に同定 される。ガマの花粉を蒲黄といい、止血作用がある。「因幡の白兎」ではウサギがガマの穂にくるまって傷を癒した。

 葉や茎は敷物や籠、すだれをあむのに用いられる(『世界有用植物事典』)。(野口)

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