【鵁鶄】

鵁鶄、一名鵁鸕()一名{刑-刂+鳥}。鳬に似て脚高く毛冠あり()。高木に巣くひ、子を穴中に生む。子其の母の翅を銜へ飛びて上下す()。淮賦の所謂、「鸕{茲+鳥}は雛を八九に吐く、鵁鶄は翼を銜へ低昂する」者なり。叚(ⅰ)氏云ふ、「鵝は鬼に警し、鵁鶄は火を厭ひ、孔雀は悪を辟く」(4)と。旧に云ふ、此の鳥長目にして其の睛交はる。故に鵁鶄の号あり。相如が賦する所の「交睛旋目」(5)なる者は是なり。『禽経』に曰く、「旋目其の名は{環-王+鳥}、交目其の名は{刑-刂+鳥}、方目其の名は鴋」(6)と。

[校記]

(ⅰ)五雅本、叢書本、段に作る。

[注釈]

(1)『説文解字』四篇上に「鵁鶄(…)一に曰く鵁鸕なり」とある。

(2)『爾雅』釈鳥に「{刑-刂+鳥}、鵁鶄なり」とあり、「鳬に似て」から「毛冠あり」までは郭璞の注。

(3)『芸文類聚』鳥部下・鵁鶄が引く『異物志』に「高樹に巣くひ、子を窟中に生む。未だ飛ぶ能はざるものは皆其の翼を銜へ飛ぶ」とある。

(4)段成式『酉陽雑俎』続集・支動。

(5)司馬相如『上林賦』に「交精旋目」に作る。

(6)今本の『禽経』になし。

[考察]

 『中国経済動物志』では鵁鶄は池鷺(学名Ardeola bacchus、和名アカガシラサギ)の別名とされている。『本草綱目』禽部・鵁鶄の集解の「鵁鶄、大なること鳧鷺の如くして高脚。鶏に似て喙長く、好く啄む。其の頂に紅毛冠の如きあり」という記載とアカガシラサギの特徴が一致することからも間違いないだろう。アカガシラサギは、体長約45㎝、体型的にはゴイサギにはよく似ており、いくらか丸みを帯びた体つきに、頭部から背中に向かって飾り羽が伸びている。頭部から頸部にかけての毛は栗色で、飾り羽も同色、腹側は乳白色、肩から背中にかけては青灰色の毛に覆われている。樹上に巣を掛ける。

 「鵁鶄は火を厭ふ」といった記載は他にも多く見られ、『爾雅』注では「江東の人之を養ひ、以て火災を厭ふ」とあり、古くから火災よけとされてきたようだ。

 {刑-刂+鳥}は鵁鶄の別称とされているが、現在ではヨシゴイの仲間に{刑-刂+鳥}の字が用いられている。(吉野)

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